テレビは、こちら側の想像を超えて広がっていく反響のあるメディア。だからこそ面白くもあり怖くもある/有限会社ODDJOB?卒業生 山崎泰佑

インタビュー

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ずっと憧れていた会社で働けるという幸せ

――現在、山崎さんが担当されているお仕事について教えてください

あとはそのお仕事をしながら、時々ロゴのデザインをしたり、特番で使うタレントさんの似顔絵イラストを作ったり。それから「Newspeak」という若手バンドのMVのアニメーションに関わったりもしました。でも基本的にはやっぱりテレビのお仕事が多いですね。

――ODDJOBさんへは2021年に転職されたそうですね

山崎:それまではADとしてテレビ業界で働いていました。もともとテレビを観るのが小さい頃から好きだったので、就職するなら好きなものに関わる仕事がいいなと思って。でもやっぱり「絵が描きたい」という思いが強くなっていって、どうせなら絵を描くことでテレビ業界に関われる仕事に就きたいと考えるようになりました。そして2020年4月に退職したんですけど、コロナ禍で全然求人がなくて、とりあえずお金を稼ぐためにアルバイトしながら約1年過ごして。そしたら翌年の1月にODDJOBがアニメーターの求人を出したので、チャレンジしてみよう!と思って受けました。

実は高校生の頃からこの会社のことは知っていて、大学4年生の時にも就活のタイミングでWebサイトを見ていたんですけど、「現在募集はしておりません」と書いてあったので、その時点で諦めちゃったんですよね。でも同じテレビ業界にいたらいつかチャンスがあるかな、と淡い期待もしつつ(笑)。なので、採用が決まった時は本当に嬉しかったです。

有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん お話されている山崎さん
お話を伺った山崎泰佑さん。会議室には会社が制作に関わった作品のDVDや、創作意欲を刺激するグッズが並ぶ

――まさに“念願叶う”ですね

山崎:そうですね。僕は「水曜日のダウンタウン」のプロデューサーをされている藤井健太郎さんという方のファンで、高校生の時からずっと藤井さんの番組を追いかけていたんですね。で、番組を観るたびオープニングアニメやタイトルロゴ、テロップなどのデザインがすごくかわいいし凝っていたので、エンドロールで確認したらODDJOBの名前があって、その時に初めて存在を知りました。

――どんな時にこのお仕事のやりがいを感じていますか?

山崎:入社してからまだ1年も経たないんですけど、そんな中でもすごく嬉しかった出来事があって。僕が今住んでいるところの向かいには保育園があって、朝になると「おはよう!」と声が聞こえてくるような環境なんですけど、ある日いつものように会社に行く準備をしていたら、不意にクックルンに出てくる必殺技を叫ぶ子どもたちのすごく楽しそうな声が聞こえてきたんです。その時、「あ、自分の作ったものがちゃんとみんなに届いてる!」って嬉しくなって、すごくやりがいを感じました。

最近はネットが普及したことでいろんなコンテンツが生まれていて、昔みたいにみんながテレビを観ている時代ではなくなったんですけど、それでもやっぱりテレビの反響ってすごいし、想像もしていないような人が観ていたりするところがテレビの面白さであり怖さでもあると思っています。だからこそ適当な仕事はできないな、と。

有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん 作業中の山崎さん

――そんな中で普段から大事にされていることはありますか?

山崎:僕は「ま、いっか」っていう言葉が好きじゃなくて、そう言ってしまったら終わりだと思っているんですね。なのに、作業しているとたまに言ってしまうことがあって…。普段から言わないように意識しているのに。だからこそ、絶対言わないようにしたいといつも思っています。もちろん締め切りに間に合わせることが一番大事なんですけど、それでもその時ある時間を最大限に使って少しでもクオリティを上げられるように、日々自分を奮い立たせています。

「絵を描く」ことを疑う衝撃的な授業との出会い

――芸工大の洋画コースに進学を決めたきっかけは?

山崎:僕がもともと絵を描き始めた理由は、マンガ家になりたかったからなんです。幼稚園の頃に「ONE PIECE」を読んで初めてマンガ家という仕事を知って、「毎日絵を描いてお金もらえるの?最高!」っていう幼稚園児ならではの考え方で(笑)。で中学生の時からデッサンの勉強をするようになって、その頃から美大に入ろうというのは決めていました。

有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん お話されている山崎さん

そして高校に入るちょっと前くらいなんですけど、僕の地元?三重県で活動されている伊藤清和先生という油絵作家さんの作品を初めて観た時に、すごい衝撃を受けて。それで自分でも油絵を描いてみたいと思うようになり、それからはマンガ家になるためではなく、油絵科に入るために勉強するようになりました。その作家さんは油絵教室を開いていたので、そこに通って絵と油絵の勉強をして。

でもいざ受験となったら、受けた関東の美大が全部落ちちゃって。それで、その先生に相談したら僕の性格をしっかり見抜いていて、「君は性格がおっとりしているから、急かされた時間の中で絵を描くというのは苦手だと思うんだよね。もっと時間の流れがゆっくりしているような場所で、自分のペースで美術の勉強ができる大学に行った方がいいんじゃないかな」とアドバイスしてくれたんです。その時は自分で自分の性格がよく分かっていなくて、とにかく受験に必死になっていたので俯瞰して見ることができなかったんですけど、でもやっぱり自分に油絵を描くきっかけをくれた先生がそう言うんだったら間違いない!と思って、その恩師の言葉をきっかけに芸工大を受験することを決めました。

有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん お話されている山崎さん

――実際に芸工大で学んでみて、特に印象に残った授業などありますか?

山崎:1~2年生の頃は基礎的な実技を伸ばすための授業が多かったんですけど、3年生になったら一気に発想とか自分のオリジナリティを求められる課題が多くなって、そこからとても楽しくなりましたね。

中でもすごく今の仕事につながっていると感じるのが、“絵を描いて表現することが当たり前になっているけれど、自分が表現したいことを最大限に生かせるメディアって本当に絵なの?他にもあるんじゃないの?”というのを見直す課題に取り組んだことですね。それが本当に面白くて。僕は映像学科の先輩に教えてもらいながらアニメーションを作ったんですけど、洋画コースに入ったのに油絵を描かせない授業があるということ自体すごく衝撃的でしたし、他のみんなにとっても大きな分岐点になった授業だったんじゃないかなと思います。

そして、そのアニメーションを作る時に初めて「After Effects」というAdobeの動画編集ソフトを使ったんですけど、ODDJOBの募集要項に「『After Effects』の基礎的な知識がある人」と書いてあるのを見た時は、そのソフトを使ってアニメーション作った過去の自分に心から「ありがとう!!」と感謝しました(笑)。

有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん 学生時代の動画編集の経験が、憧れの会社への架け橋に。
学生時代の動画編集の経験が、憧れの会社への架け橋に

――また山崎さんは、会社でのお仕事だけでなく個人でも絵を描いて発表しているそうですね

山崎:声がかかった時にやるくらいではあるんですけど、地元でのグループ展に誘われることが多いですね。そこから個展につながるパターンもあったりします。よく描くのは動物ですね。だまし絵みたいなのが好きで、動物っぽいけど実は食べ物、みたいな絵をよく描いたりしています。

有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん 「バニャニャ」
「バニャニャ」/アクリル、キャンバス/273mm×273mm
有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん 「ニャップル」
「ニャップル」/アクリル、キャンバス/273mm×273mm

でもぶっちゃけて言うと、アーティスト活動をしている時よりも、クライアントの意見を汲みながら相手の要望するものを作り出している時の方が達成感があるんですよね。だから今の仕事が本当に本当に楽しくて。とは言え、「このイラストのタッチ=山崎泰佑」となるような作風を見つけていきたいな、とも思っています。最初の方でも話した通り、僕は藤井健太郎さんの番組のロゴとかを見てこの会社で働きたいと考えるようになったんですけど、「水曜日のダウンタウン」の人気の理由って、あのちょっとサイケデリックなデザインとか独特なオープニングにもあると思うんですね。なので僕もいつかデザインの力で番組の人気を後押しできるような仕事をしてみたいです。

有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん 会社前の道路にて

――それでは最後に受験生へメッセージをお願いします

山崎:地元の友達と話していると、「山崎くんって油絵の勉強してたのに、今はアニメーションの仕事をしてるんだね」って言われることが結構あるんです。僕が初めてデジタルで絵を描いたのは大学2年の時なんですけど、実はもともとデジタルの絵が大っ嫌いで、「絵はアナログで苦労して描くのがいいんだよ」とか思ってるような人間だったんですね(笑)。でも2年生になる時の春休みに、「デジタルの絵ってね~」って話をみんなとしていた時にふと、「アナログしかやってないヤツらがデジタルの悪口言うって、全然説得力ないよな…」って思ったんです。そこで、大っ嫌いではあったんですけどわざわざペンタブを買って絵を描いてみたら、アナログとデジタル両方にメリット?デメリットがあることが分かって。そこからはデジタルの絵に対しても「すげー!」って思えるようになりました。

だから、もし昔の僕みたいにすごく毛嫌いしているものがあったり、「あのコースだけには入りたくない」とか思っている人がいたら、あえてその世界に飛び込んで、一度経験してみてほしいです。そうすることで視野が広がるはずですし、いろんなことを体験することで自分が想像もしていなかったところに行けると思うので。

その時、経験したことが結果として良かったのか無駄だったのかを判断するのは、結局未来の自分。だからこそいろんなことにチャレンジできる今の時期に未来の自分への投資だと思って、何でもやってみてほしいですね。

有限会社ODDJOB 山崎泰佑さん 会社前の生け垣前にて

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ずっと好きだった、テレビを観ることと絵を描くこと。その両方がマッチングした仕事に就けている現状を「ご褒美」と表現していた山崎さん。尊敬できる人たちとの出会いや洋画コースの枠にとらわれないユニークな学び、そして「嫌いだからこそやってみる」という逆側の視点に気付くことができたからこそ、心からやりたいと思える仕事に出会えたのだと感じました。

(撮影:永峰拓也、取材:渡辺志織、入試広報課?土屋)

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東北芸術工科大学 広報担当
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